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太極拳養生の鍛錬は
「三調」という内容を通じて心身を鍛えます。

「三調」とは、調心・調息・調身の略称です。
ココロ・気息・カラダ、この三つの方面を整える(調える)方法と技術が、
中国の伝統医療健康法である「導引 ドウイン」の基本要素となります。

しかし、太極拳養生鍛錬の三調の内容は
他の伝統な導引法とは違い、独特ともいえる鍛錬の重要点があります。

まず、太極拳養生の調心鍛錬では
主に心理活動と情緒変動の整えを行います。
鍛錬中は三調の中でのリーダー役としての内容を行い
ココロを「平静状態」に整えていきます。

つぎに太極拳養生の調息鍛錬は、
主に呼吸と気力の整えを行います。
鍛錬中は監察役としての内容を行い
気息を穏やかに整えていきます。

さらに太極拳養生の調身鍛錬は、
主に動作の姿態と動きの流れに関わる整えを行います。
鍛錬中は身体を建物の基本構造のように見立てイメージして行い
身体の運動機能を丁寧に整えていきます。

このように太極拳養生の鍛錬は
ココロ・気息・カラダの三調を
相互に協調し合って長寿健康に整えます。


「知道者,法於陰陽,和於数術,・・・」
この文は
中国伝統医学の経典医書『黄帝内経』に記載されています。
意味は
道を知った者は、陰陽に則り、数術に和す。・・・とのことです。
太極拳の「太極」とは実は陰陽の別称であります。
即ち、太極拳という拳法は陰陽に基づく拳法なのです。

では、「陰陽」って何でしょう?

この二つの文字の本来の意味は
太陽に照らされる処或いは部分を「陽」で表示します。
太陽に照らされない処或いは部分を「陰」で表示します。
やがて、文字の意味を徐々に広げて応用していきました。
陽とは
明るい、温かい、高い、早い、硬い、表的、動的、直的、伸展的
などの意味を持たせてきました。
さらにはものの機能性も陽となりました。
陰とは
暗い、冷たい、低い、遅い、柔らかい、裏的、静的、曲的、巻縮的
などの意味を持たせてきました。
機能性に対して、ものの本体は陰に属すこととしました。

こうして陰陽に含有する意味が幅広くなった結果
中国の伝統的な世界観を認識する方法論の一種として
形成されるにいたりました。
それは「陰陽観念」または「陰陽思想」と呼ばれています。
この陰陽思想が
中国古代生活の各方面に浸透、応用されることで
基礎的な理論となり、「陰陽理論」という名称を付けられました。
中国の伝統医学(中医学)は勿論のこと、
文字、占い、料理、建築、音楽、詩歌、舞踊、武術、
…等々多方面において
この陰陽理論に基づくことで皆が発展してきたのです。

太極拳養生もまた、
その名前からもわかるように陰陽思想をそれぞれに体現します。

太極拳(動作)は鍛錬の本体であり、「陰」とします。
養生(応用)は鍛錬の効用であり、「陽」とします。

鍛錬中においては
我々の身体は「陰」に属し、ココロは「陽」に属することです。
内臓組織や各種液体などの体内の部分は「陰」に属し、
筋肉関節などの体表の部分は「陽」に属します。

外観から見たからだについては
体幹部は「陰」として、手足は「陽」とします。
胸とお腹は「陰」とし、背中と腰は「陽」とします。
足は「陰」に属し、腕は「陽」に属します。
手のひら、足うらは「陰」に属し、手の甲、足の甲は「陽」に属します。

太極拳の動きを見分ける場合には
後退、降下、合わせ、円線的、柔らかくゆっくりとした動きは
「陰」に属します。
前進、上昇、開き、直線的、強めに速くした動きは「陽」に属します。

このように、太極拳養生は「陰陽思想」に則ったものです。
健康運動法として利用するだけにとどまらず
伝統的な文化を取り込んだ養生法だと思って鍛錬を行うほうが
またひとつ楽しみが増えるのではないでしょうか。

太極拳養生が提唱する養生は
ただの健康づくりや健康維持の範囲にとどまらず
むしろ「体調管理」の概念に近いものといえます。
分かりやすくいえば
養生とは生命力を調節、保養するという意味です。
これは中国の伝統的な考え方であります。

今でいう「健康維持」、「健康回復」
または「健康促進」「健康長寿」などといった言い方は
ほぼ病への意識から生じる、
病に成りたくない、病から遠く離れるようにしたい
という考え方から派生したと考えられます。
なぜなら、病にかかると
軽い場合なら色々な気持ちの不快感や行動の制限が生じ、
仕事や生活に不便やさまざまな差し障りが引き起こされます。
酷い場合となれば生死に関わる事態にも繋がってきます。
ですから、現代人の意識は「健康」に集中してしまうのです。

養生は、古代の中国では摂生とも言いました。
養生或いは摂生の「生」には、
生命の意味があるのは勿論のことですが、
もっとも強調したいのは「生きる」という意味であります。
即ち、「活力」「生命力」のことです。

人間が生きられる年数は何十年から百年ぐらいまでありますが、
その期間を通じて、
成長発育、成熟強壮、疲労衰弱老化の生命状態の変動を経ます。
そして生活環境の天気の晴雨、季節の冷暖、飲食の豊足少缺
感情上の喜怒悲恐の発生転化、等々の遭遇も経ます。
こんなにも多くのことに対して生命を維持し続けられるのは
生命力というパワーのおかげです。
現代医学では
「免疫力」や「自癒力」などといった名称を使って表現しますが
中国の伝統医学、中医学では
「気」「元気」「正気」で呼びます。
生命力の状態を正常に保ち、あるいは良好に養っていくと
生命の年数も長くしていけますし、
身体の機能も良くできるのではないでしょうか。

従って、養生は健康に意識することではなく
生命力に意識して、調整と保養を行うことです。
太極拳養生は、
「延年益寿不老春」という理念と目標を持って
生命力に関する体・心・息の整えを行います。

太極拳を練習されている人数は
全世界では1億ぐらいあるようと記載があります。
日本でも有名となり、
各地域に太極拳教室や太極拳練習の組織があります。

そうすると、「太極拳ってなんですか?」
簡単かつ明白的に説明できませんか?
つまり、人に説明する場合もちろんですが
自分がどのような太極拳をやっているのか
を自分に説得する必要があると思います。

太極拳の本源は武術であることは
大勢な練習者や利用者がご存知ですが
太極拳の動作や套路は
格闘護身の技の意味を含有します。
ですから、太極拳は武術であることには、
今の時代でもこだわっている方は少なくありません。
しかし、最近の四、五十年で普及のおかけで
一つは、太極拳は競技運動の一種としてできまして
太極拳世界大会も毎年開け、
参加する選手の国籍も益々増加しましてきました。
一つは、健康の目的を持って
練習利用者が多く増えています。

競技太極拳は、
形の難度や綺麗さに求めることが仕様がない、
選手のレベルを区別し点数を判断するためだからのです。
勿論、優雅な動作、優秀な選手へ目指すことも楽しいで、
武術太極拳の練習と同じ日々の努力も欠かさないことです。

健康のための太極拳鍛錬は、
身体自体に意識して行うことです。
この点は、
武術太極拳や競技太極拳とは一番違いところです。
太極拳養生は、
太極拳を健康養生方面に応用するので、
太極拳にたいする認識は
当然武術や競技と違い考えができます。

まず、太極拳の練習特徴については
速度がゆっくりにし、筋力に要求が高くありません。
まるで体力体調が弱い人に合わせて
作られた運動法でしょう。
ですから、
利用者の個人条件に対しては厳しくない、
どなたでも練習できる健康法だと思います。

つぎ、太極拳は肢体を動かす方法ですから、
筋肉、関節または気血の巡りには
整える効用を期待できます。
特に太極拳は全身運動であり、
様々の動作があることで、
日常にあまり使わない筋肉を使い、やらない動きを動かし、
運動機能を高める効用も期待できるではないかと思います。
単なる身体運動の維持及び促進、回復の目的にしても
利用できます。

さらに、太極拳の練習は
伝統の養生思想と導引方法を込められ、
心身両面を共に整えます。
特に心の整えは、
伝統な養生法の中に一番重視されることです。
穏やかな気持ちは、
健康の時には病気を遠離する要点であり、
病気中の時に病邪と戦ったり回復力を高める要素であります。
こういう穏やかな気持ちになることは
太極拳の導引鍛錬では鍛えられることです。

また、太極拳は
中国古代の陰陽理論に基づいたものですので
鍛錬を進める時、陰陽バランスの境地から
天人一同、形神兼備の養生思想を理解し、
楽しめることができます。

太極拳養生の外形特徴と言えば、
その「動き」でしょう。
「スロー」「オダヤカ」
そして「ムズカシイ」... 等々
皆さんの第一印象もそうだったのではありませんか?

確かに肢体を動かすことは
太極拳養生における鍛錬の基本ベースとなるものです。
これには奥深い理由があるわけではなく、
自然に従っているだけなのです。
どういう意味かといえば、人間は動物ですから、
はじめから身体構造や生理活動のすべてが
動かせるように作り上げられていたというわけです。

ただ、多くの運動方法とは違って、
太極拳養生で肢体を動かす方法には独特な特徴があり、
健康長寿を実現できるようにするための
独自な考えを持っています。

その一、護身術の意味を持つ動作で身体を動かします。
太極拳の本源はやはり護身術、武術です。
約200年前その凄い格闘技を持つことで
北京から中国の全国へと、その名が広まりました。
皆さんが見たり学んだりした太極拳は
一つ一つの護身術の動作で組み合わせて
つくられた太極拳の套路(とうろ)です。

※太極拳套路とは、一定の順序とルールに基づいて
 太極拳の動作を前後繋げた組合せです。

太極拳の套路は、組み合わされた動作の数により
短套路(動作が少ない)、長套路(動作が多い)などに
分類されています。
伝統の太極拳套路、たとえば陳・楊・武・呉・孫各式では
七十を超えて百ぐらいまでの動作で構成されています。
そして現代の普及目的の太極拳套路は
十から二十ぐらいの動作で作られています。

このように太極拳の動作または套路を覚えることは
脳の活性化を促進する効用がある
との見方もできるのではないでしょうか。
初心者はもちろんのこと
例えば脳機能の低下がみられる方であっても
まずは一つの動作から始めることで
カラダを動かすことができます。
そうして少しずつ動作の数が多い套路を覚えていき、
繰り返し再現して記憶力を高めていくことで
脳機能を活性化し促進させることでしょう。

その二、全身を意識して
「ゆっくり」「ていねい」に身体を動かします。
太極拳養生には、単に肢体を動かすというのではなく
筋肉や関節の動きの状態を
柔らかにするという明解な運動目的があります。
いってみれば太極拳養生は
肢体運動の質を追求するともいえます。

しかしそれは何回、何十回、何百回と手足を動かした結果
「筋肉が付いてきた」、「筋力がアップした」、
「関節の動きがよくなった」などなど
そういう類いの運動結果を追求することではないのです。
太極拳養生は
一つ一つの手の動き或いは足の動きを進める時に、
「ゆっくり」「ていねい」に行うこと
つまり、腕や足が持ち上がったり、下がったり、
開いたり、回したりすることを
「ゆっくり」「ていねい」に行うように
意識をして動かす方法です。

その三、「導引(どういん)」概念で身体を動かします。
太極拳の肢体運動に対しての現代的な理解は、
有酸素運動であり、筋肉づくりや筋力強化、関節機能の改善、
運動神経やバランス神経の促進などが
期待できる運動法というものです。
それに対して伝統の考え方では次のように考えます。
生きていて健康な動物のカラダというものは
柔らかい状態ですが、
肢体機能が低下した時、あるいは生命が亡くなった時には
身体は硬直した状態になってしまいます。
そこで肢体を柔らかな状態に導くことが大事であると考えて、
簡単に曲げたり伸ばしたりするような身体運動にはせず、
わざと複雑な動きになるようにして全身を使って動くことで
柔らかい身体に導いて行くというのが導引法の考え方なのです。

ですから太極拳養生は
ゆっくりていねいに身体を動かしているのです。

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